地域観光 振興作戦

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更新;2020/10
5. 大和ミュージアムを主軸にする呉観光戦略  (2020/ 3記)
  呉観光戦略について「一観光ボランティア」の目で、考えて見たいと思います。
 私たちは、呉市周辺、及び広島や宮島に来訪する観光客にツアーガイドをしながら、お客様から全国各地の情報や、来呉に当っての問題や 色々な意見など、『地域観光振興』戦略上、貴重な「生の声」を聴くことができます。
 以下、そんな経験を基に『呉観光戦略』について考えてみました。
             目  次
  【1】 "海色の歴史回廊"(要旨) 
  【2】 大衆観光客を誘致する為の課題
    2-1). 「呉=終日観光満足度」の課題 (1)
    ❶ 大衆観光客を「呼び込む」為の課題;
❷エリア内移動手段 ;「公共交通機関」の問題;
❸バスツアーなど≪団体客を誘致≫に当っての課題
❹「住民ぐるみ協力体制」の課題
❺ セミナー等による「住民啓発」と「観光ボランティアの率先垂範
     2-2).バスツアー等(団体客)誘致の課題 (2)
    ❶ 「終日観光ツアー」の目的地に選ばれる為の課題
❷各名勝スポットの「見学(滞在)時間」が、最短時間に固定化される問題
❸「呉=終日観光コース」は 「ワンパターン化」しかできない理由
❹全呉を通貫する ストーリーがなく、呉観光の(ツアーインパクト)が弱い
❺ リピーター(呉ファン)化を促す配慮がされていない
  【3】 対 策  ***** 呉(周辺)への観光客誘致戦略 *****  
         ***** 大和ミュージアムを軸にする”呉”観光戦略 *****
    3-1) 対策-1  ★ 複数回連続型≪ストーリーツアー≫の提唱
    3-2) 対策-2  ★ 大和ミュージアムを軸にする【呉=終日観光コース】の開発
    ❶大和ミュージアム見学時間のフレキシブル延長の注目
❷ 団体ツアーの「大和ミュージアム見学(滞在)時間」 延長が難しい理由
     3-3) 対策-3  ★ 大和ミュージアム見学(滞在)時間を延長する方策  
    ❶ 観光ボランティアによる「セミナー」開設  
❷ その他の施策
    3-4) 対策-4  ★ 観光ガイド方法の工夫
     3-5) 対策-5  ★ 近郊都市との連係戦略  
    3-6) 対策-6  ★ (旅行会社の)ツアープランナーとの折衝
  【4】 参考事例  ”呉湾 おさんぽクルーズ”(呉ー江田島往復フェリー)のガイド体験
  【5】 総  括



    【1】 "海色の歴史回廊"(要旨)             
   最近、訪日客を含め全国的に空前の観光ブームになっています。 しかし続々新しい観光地が生まれ、交通機関も発達し、1日の移動範囲が急拡大したことで、観光客にとってはし沢山の候補地から好きな旅行先所を選べます。
  その結果、観光客は限られた地域(勝者スポット)に集中し、その他は こぼれ客を漁ってしのぎを削る図式になっています。
  観光客が集中する地域は、例えば、景観、保養、テーマパーク、農業やスポーツ体験、文化芸術鑑賞、教養、グルメ、エンタメ、カジノ、周辺地域との連係型・・・等々、ジャンルは様々ですが、肝心なことは、それぞれの地域固有の”差別化ポイント” が軸(芯)になければ、土俵に乗れないことです。

  それは”呉周辺”には、→❶瀬戸内景観など地理的条件に恵まれ、→❷江戸時代の文化・風俗を彷彿する歴史遺産や、→❸近代日本形成の針路を開いた呉軍港遺跡(日本遺産)や、その他歴史遺産も合せて『瀬戸内の景観・歴史・文化』は、全国でも第一級観光資源(お宝)が揃っています。 それらをパーツにしてストーリーを組立てれば、興味あるツアーテーマは幾らでも考えられます。 それに沿って景勝地や史跡や歴史遺産を探訪(観光ツアー)すれば、江戸時代以降、約400年の 「日本歴史を連続して展望する」スケールの大きい物語が実地で体感できます。

  しかし、それには《呉固有の特性》を考えねばなりません。
 つまり、”呉(周辺)”の「景観や歴史遺産は、「それらが日本歴史に影響してきた役割(経緯)」が重要 《幹》です。 つまり、軸(芯)はストーリーであって「外形は見えない」 ことです。 見える物件は「それを実証する証拠品の一部」であって、《枝葉》 の関係です
   それには、次の条件を考えて「観光戦略」を練る必要があります。
 ❶ 外形のない歴史経緯;《幹》 は、一般観光者には理解し難いこと
 ❷ それを理解しなければ、「証拠品の断片外観」は 【”魂”の抜けた仏像】に過ぎません。 それを幾ら羅列しても「本末転倒」です。 「差別化ポイント」にはなりません。
 ❸ ストーリーは、それらのパーツ(観光スポット)を繋ぐ筋書きがなければ、各拠点毎のストーリーは何ヵ所鑑賞しても、(呉の)本質的魅力は 焦点がボケて定まりません。
   その総合評価が、現在の”呉”の知名度であり、脚光度であり、観光客数です。
 しかし「(歴史経緯)の理解が難しい」ことは、マイナス要因ではありません。
    呉周辺には教科書も参考書も揃っています。
 しかし観光客(大衆)は、通常、ページをパラパラめくるだけです。 落着いて読む人はいません。 従って呉の魅力は「”魂”の抜けた仏像外観」しか評価されないのが実態です。 それを筋書き立てて説明する「教師」が必要と言うことです。
  →❶「教師」としては 観光ボランティアから育成するのが最も現実的と考えます。
  →❷それに 『観光コースや、見学順路、広報・情宣、ゆるキャラ、現地住民意識・・・など』も同調してバックアップすれば更に効果的です。 高額投資の必要はありません。
  寧ろ、大勢のお客様は、ストーリーが理解できれば、益々「興味の連鎖」して、新たな「リピーター」や、熱烈な「呉ファン」が生まれるチャンス になります。
   →❸その波及効果は、経済効果を目的とする飲食業、宿泊業、商店街、交通機関、グルメ、・・・等も追随して、活性化の好循環に繋がる筈です。
  以下、そんな戦略を 「観光ボランティア」の立場で考察していきます。



   【2】 大衆観光客を誘致する為の課題
    日本全国に、魅力的な観光施設が次々オープンし、交通機関も発達した現在、観光客の「1日の行動範囲」は著しく拡大しています。
  それは観光客には、訪れたい候補地は幾らでもありますが、日程の制約と併せて、条件の合う人気スポット(勝者)に集中し(溢れ)ます。 その他多くは競争に勝てません。 しかし空前の観光ブームでは「敗者復活戦」のチャンスがあり、多くの地域が救われますが、多くの敗者も残されるのが実態です。
  (観光客の)移動範囲拡大で広島や宮島に大勢来訪しますが、旅程(タイムスケジュール)はタイトです。 それを近くの ”呉”に誘導する戦略は正道とは考えません。
 一日を有効に過ごせる 『終日観光満足度』 競争に勝つ戦略が必須です。

  2-1). 「呉=終日観光満足度」の課題 (1)
 
大衆観光客を「呼び込む」為の課題 ;
  私たちは、広島や宮島をガイドするお客様には(呉にも)来訪を奨めますが、やっと成功しても大和ミュージアムを駆け足見学してトンボ帰りが定番です。
 それを旧市内や近くの名勝スポットに誘導するのは更に至難です。
 京都や大阪からの日帰りは「当り前」ですが、呉に立寄る余裕はない為です。
 要は、「終日観光満足度」を確保する戦略がなければ勝負になりません。
呉エリア内移動手段 ;「公共交通機関」の問題 ;
    幾ら、観光資源が魅力的でガイドブックも立派でも、現状の交通機関で 一般観光客は効率的な移動(1日周遊)はできません。 観光客さえ来訪すれば、交通機関の増強は可能でも、逆は成り立ちません。
  それにはバスツアーやクルージングなど≪団体客誘致≫を軸に戦略を考えるべきです。
バスツアーなど≪団体客誘致≫の課題 ;
  ≪『終日観光ツアーコース』が組み難い ≫;
       ところが「各観光スポットの地理的条件」と、各々の「見学時間」を組合せは、 下記; 2-2) ❸ の制約で、ツアーコースは非常に限られます。
 現在運用されているコースは、『大和ミュージアム+下蒲刈+御手洗』が代表です・・・と言うより、それ以外のコースは実用化できません。
  「呉ストーリー」が断片化して、ツアーインパクトが弱い≫;
       その「代表的ーコース」も、大和ミュージアム、下蒲刈、御手洗の各拠点が、個別バラバラの対応で、ストーリーが断片化して・・・、全呉"を通貫する”固有の特長(差別化ポイント)は活かせません。
住民ぐるみ協力体制」の課題 ;
    一般観光客は、現地を訪れても、物件の外観だけです。 秘められる歴史的魅力は実感できません。 しかし各名勝スポットに観光ガイドは常駐しません。 (バスツアーも含め)ガイド説明などを聴くお客様は1%にもなりません。
  観光戦略には現地住民の関心や協力も大切です。 しかし住民には、観光に恩恵を受けない人、立場の異なる住民も大勢いて、観光には概して無関心です。
    観光先進地では、観光客が利用するコンビニとか、レストランとか、タクシーとか、バスに乗合せた乗客とか・・・街の雰囲気も差別化ポイントになっています。 
 セミナー等による「住民啓発」と「観光ボランティアの率先垂範」の課題 ;
     それには、①呉市はセミナーや、広報などで住民を啓発するカリキュラムを考え、②私たち観光ボランティアも、車の両輪となって観光客サービスに率先垂範する姿を住民の目に焼付けなければ、住民は動かないでしょう。
     それは観光ボランティアが、『井の中の蛙』でなく、常に外部の動きを注視し、新情報を採り入れ 発想や活動姿勢も 「目新しさ」がなければ、呉は観光先進地にはなり得ないでしょう。

  2-2).バスツアー等(団体客)誘致の課題 (2)
      【バスツアー等(団体客)】誘致については、前項; 2-1)❸ (ツアーコース、通貫ストーリー性)に関連し、次の様な現状の改善が必要です。
 
 ❶ ”呉”が 『終日観光の目的地』 に選ばれる為の課題 ;
 (旅行会社の)ツアープランナーは、”呉”に精通してはいません。 もっと広いエリアに向いて魅力ある「新しい名勝地の発掘」に懸命です。
  それは、私たち(呉サイド)から、”呉”の特長や新情報を常に発信し、『”呉”再発見』を促す提案を、積極的にしていかなければ何も変りません。
 ❷各名勝スポットの「見学(滞在)時間」が、最短時間に固定化される問題;
 バスツアーの場合、各々の現地見学(滞在)は次の様な理由で最短時間に設定されます。 それは受入側も、世間的にも「当然化」して簡単には変りません。
     ①バスツアーは他にも多数の観光スポットを周ること
  ②個々の現地に、余り興味がないお客様も同乗しており、そんな人が待機
    する施設や場所確保の問題、 等々
  ③受入れ側(大和ミュージアムも、入船山記念館も、松濤園も、御手洗等も)
    ツアー主催者の言いなり(受身対応)が 「固定観念」として定着している。
 ❸「呉=終日観光コース」は 『ワンパターン』 しかできない理由;
  ところが、各観光スポットの「見学(滞在)時間」が「ほぼ固定」と、各「スポットの地理的条件の組合せでは、 「呉=終日観光ツアー」は、 ≪やまとミュージアム=下蒲刈=御手洗≫ の 「ワンパターン」に事実上限られます。
  それ以外のツアーコースは、時間的に中途半端で催行困難です。
  結果として、旧市内の自由散策や、音戸の瀬戸公園や、日招き像や、歴史の見える丘(御手洗)・・・等々、折角の 「お宝スポット」は 「宝の持ち腐り」せす。
 ❹全呉の通貫 ストーリーがなく、呉観光ツアーの『インパクト』が弱い
    「呉=終日観光ツアー」で巡ると、大和ミュージアムや、他の観光名勝も、観光ボランティアの説明も、各拠点毎(個別独立形)でこじんまり纏まっています。 しかし①全呉を通してのメリハリも、 ②通貫するストーリー性のインパクトが弱い、③見残しスポットの魅力案内もない・・・等、呉の本質的な魅力評価はされていません。
  ❺ リピーター化(呉ファンに生長)を促す仕組みがない
     一般観光客の殆どは、(呉への)関心や興味は、それ程強くありません。
 それでも、(私たち観光ボランティアが)冒頭【1】の様な ”呉”ストーリーを説明すると、かなりのお客様が強い興味を示します。 (時間的制約で説明し切れなければ)日を改めて再来訪(リピーター)意欲を示す人もいます。 勿論、私たちは再来訪を奨めますが、しかしそれにも次の問題があります。
    つまり、”呉観光” のガイドブックも、パンフレットも、ボランティアガイドも、団体ツアーも・・・、全て「初来訪のお客様」向け【1day完結型】のプログラムしかありません。
  リピーターを招き入れる配慮はありません。
    リピーター用資料は、「郷土史家」か、かなり上級マニア向けしか見当りません。
 バスツアーも、交通手段も・・・、結局、初来訪時と 同じコースを周り、
 観光ガイド案内も、前回と同じ説明を聴くしかありません。 一般大衆にリピーター化の道は、開かれていません。



   【3】 対 策  ***** 呉(周辺)への観光客誘致戦略 *****       
          ***** 大和ミュージアムを軸にする”呉”観光戦略 *****
    以上、現状の問題点及び課題について述べました。
 それが把握できれば、対策(観光客誘致の基本戦略)は 次の様に絞られます。
 
『呉=観光客誘致戦略』として具体化すべき事柄

   ①.公共交通機関の問題       前項 2ー 1).❷
  ②.住民ぐるみ協力態勢の構築   前項 2- 1).❹、❺

  ❸.呉(周辺)の観光資源を連係する『ストーリー化』戦略
  ❹.それを活かせる為の新たな観光コース開発
      ◆大和ミュージアムを軸にする「呉=終日観光コース」開発
      ◆大和ミュージアムの見学(滞在)時間フレキシブル延長)
      ◆各名勝地の連係体制の整備
  ❺.観光ガイド方法の工夫
  ❻.団体客(バスツアー等)を誘致する為の働きかけ
        ツアープランナーと折衝、 広報・情宣活動、・・・等
    但し、 ①.②.は前項で既述しているので、ここでは ❸~❻の対策ついて、日常のガイド経験等を基に順不同で考えます。


  3-1) 対策-1
          ★ 複数回連続型≪ストーリーツアー≫の提唱

 呉(周辺)名勝には、江戸時代の文化・風俗に潤いをもたらした朝鮮通信使や、北前船の史跡や、当時の庶民生活のありさまを彷彿させる町並みや、北前船の全盛時代から急転直下日本一の軍港建設・海軍時代に遷移する経過や、その後 日本一の軍港として世界の歴史を動かし、その経験は戦後 日本建設に大きく活かされている事実・・・等々、約400年に渡る日本の歴史を物語る材料が揃っています。
   しかし (呉の)現在の知名度や世間評価や、観光振興の姿勢も・・・は、全ての遺構や歴史遺産を 1日で巡る 【 1day 完結型ツアー】 しか発想がありません。
 それが固定観念化して、ツアーコースも、事実上 『1種類』 しか催行されない≪ 前項; 2ー 2)❸ 参照≫のでは、呉のお宝は 「宝の持ち腐り」になっています。
 呉の魅力(お宝○○選)など、ガイドブックが幾ら立派でも、一般観光者は「極く一部の名勝スポット」しか周遊できない。
  「 1day 完結型」のツアーでは、一度来訪したお客様に再来訪(リピーター化)を促す効果は生まれない。
③   もし、”呉”に興味を覚えても、リピーター向けの、資料も、見学コースも、観光案内も、ガイドサービスもない。 ≪ 前項; 2ー 2)❺ 参照≫
  要は、「”呉”のお宝」(多数)を活かすには、観光客を迎え入れる「観光振興」は、次の様な、複数回連続ドラマ型ツアー(ストーリーツアー)を商品化する以外にありません。
   ≪ストーリーツアー≫の提案
     ストーリーツアーには、次の 3 種構成を考えています。
 
❶ ダイジェストツアー;  *****呉;入門コース****:
 「初めて来訪する観光客」向けの”ダイジェスト(要約、目次)ツアーです。
 ツアーコースは、現在催行されているのと ほぼ同じですが、『呉ファン入門コース』の位置づけで、以下の「シリーズツアー」や「テーマツアー」への進級を勧めます。
 それには次の様な説明を強化します。
   ①呉周辺の名勝を繋ぐストーリー説明を強化する。
   ②リピーター化を促す為、未見学物件や見逃し部分の(目次)なども紹介します。
❷ シリーズツアー;  *****呉の魅力;≪お宝≫網羅コース*****
 「ダイジェストツアー」に参加して、『呉ファン中級コース』を目指す人(リピーター)、及び呉に興味や造詣の深い人が主対象です。
  ”呉”周辺のストーリーを、何回かの連続ドラマ式に編集して、数次探訪するツアープランです。 呉市内だけでなく、例えば江田島、竹原、松山、しまなみ海道、広島、宮島・・・等々とも連繋すれば、様々な組合せが可能で、インパクトの大きい長編ドラマも創作できます。
❸ テーマツアー;   *****興味深いテーマ専修コース*****
  ”呉”ストーリーの中から、興味深いテーマに視線を向け、関連パーツを探訪するツアープランです。
  ツアーのテーマは ; 例えば、戦艦大和についても「技術編、歴史編、大東亜戦史編、・・・等々、幾らでも考えられます。 朝鮮通信使や北前船関連も同様です。
 ”呉の魅力”(「お宝90選」など)ガイドブックで紹介されている名勝も有効活用できます。 主対象客は、リピーター客、及び「ある程度の呉マニア」を想定しています。


  3-2) 対策-2
        ★ 大和ミュージアムを軸にする【呉=終日観光コース】開発
 
   ❶大和ミュージアム見学時間のフレキシブル延長の注目点
  呉本来の魅力は、呉軍港や海軍関連の物語を中心にして、他の名勝物件も関連づけて、『呉物語』を創るのが自然だと考えます。
 しかし物語には メリハリ(ウェート付け)をしなければ迫力はありません。
 それには、呉の場合大和ミュージアムが軸(芯)になるのが自然です。
    しかし現状は、次の理由で、(呉=終日ツアー)のメリハリは付きません。
 ◆バスツアーなどの《大和ミュージアム》の見学時間は、最短時間に固定
   され容易に延長できない 《前項;2-2 ❷ 参照》、
 ◆その為【呉=終日観光コースプラン】は、事実上ワンパターン(1種類)の
   コースしか催行できない 《前項;2-2 ❸ 参照》
 は、既に述べました。
    しかし、大和ミュージアムの見学(滞在)時間がフレキシブル延長できれば、「呉=終日観光」は、次の様な 種々の 「テーマツアー」や、「シリーズツアー」が可能になります。
 ◆戦艦大和や~日本海軍物語をテーマの軸にする専修コース
    大和ミュージアム(主) + (副)旧市内、音戸、江田島、等 + 旧市内散策
  ◆「江戸時代から近代日本建設まで瀬戸内風景」歴史の変遷を研修コース
    大和ミュージアム(主) + (副)下蒲刈、御手洗等  + 旧市内散策
  ◆瀬戸内景観と、江戸時代から明治時代以後の歴史見学するコース
    下蒲刈、御手洗等(主) + (副)大和ミュージアム + 旧市内散策
  ◆ 等々

    ❷ 団体ツアーの「大和ミュージアム見学(滞在)時間」 延長が難しい理由
  一般観光客は、「戦艦大和」の名声に惹かれて来館します。 しかし大和ミュージアムの見学(滞在)時間が、最少限に固定されるのは、次の様な事情があります。
 
 同行者の中には、「戦艦大和」関連テーマには、大して関心がない人も大勢含まれている。 そんな人が、長時間を過ごす適当な場所が不十分。
  一般大衆は、展示物の外観を見学するだけで満足する。 それ以上長時間滞在しても却って退屈する。 (座学説明がなければストーリーの理解はできない)
 旅行会社のツアープランナーは、特別 呉に 関心が深い訳でない為、各スポット滞在時間は可能な限り短縮しようと考える。
 受入れ側も、展示品の陳列や、見学順路や、諸施設も・・・、パンフレットや、ガイドの体制も・・・、全て相手側の要望通り(受身対応)がマンネリ化して、新しいコース紹介や提案などをする発想(慣習)がない。


  3-3) 対策-3
         ★ 大和ミュージアム見学(滞在)時間を延長する方策  

   ❶ 観光ボランティアによる「レクチャー」開講  
   大和ミュージアムには、”戦艦大和”や"呉軍港"関連の資料が豊富に揃い、それを物語る遺構も呉周辺には沢山あります。 それは大和ミュージアムの展示を【教科書】、市内や周辺の遺構を【参考書】とすれば、結構見応えのある観光ができる筈です。
 しかし一般観光者は、系統的に説明する【教師】が居なければ読解力は働きません。
     つまり、教師が少し説明すれば、興味が倍増し、「呉=リピーター」や熱烈な「大和ファン」に生長のチャンスがミスミス見逃されています。  ( 【4】呉湾おさんぽクルーズでのガイド経験 参照)
 それには座学研修(レクチャー)の場を設け、系統立てた説明が効果的です。
 要するに 【館内自由見学+座学研修(レクチャー)をセットにすれば、大和ミュージアム見学の魅力は倍増と同時に、滞在時間のフレキシブル延長もできます。
    但し、座学研修(レクチャー)の対象は、全国からの一般観光客(初心者)です。
講師を著名な先生や学芸員に頼るのでは勝ち目はありません。
  観光ボランティアが講師を務め、バスツアー参加者(事前予約)や、一般入館者が ロビーの掲示を見て気楽に参加すれば、受講者は一人でも、何時でも毎日でも開講できます。 高額費用も必要ありません。 状況により、団体ツアーバスに同乗するガイドサービスも可能です。
    観光ボランティアによるレクチャーは、(専門的なハイレベルでなく)、通常ガイドの延長と考えれば、既存の観光ボランティア員から講師を募集するのは難しくないと考えます。
 それは前述の「シリーズツアー」や「テーマツアー」の催行にも非常に効果的な筈です。
 冒頭に述べた”呉”の特質を活かす為にも、最も効果的な手段と考えます。
    類似例は、「呉湾おさんぽクルーズ(後述)」の観光ガイドで経験しています。
 お客様は、大和ミュージアムを見学後、乗船されるのが殆どですが、大和ミュージアムの展示物(点)の外観を見ただけで、それなりに満足しています。
  しかし前述の様に、展示物(点)を(線)に繋ぐストーリーづけて説明すれば、改めて『呉観光の奥深さ』に感動するお客様が大勢います。 中には興味が興味を呼び再来訪の意を表わす人も結構います。    下記 【4】呉湾おさんぽクルーズでのガイド経験 参照
  ❷ その他の施策
     団体ツアーの見学(滞在)時間の延長が難しい理由は、前述しましたが、その中で団体ツアーの中には、戦艦大和や海軍関連には興味がもてない人も同乗していますので、そんな人たちの待機施設も考える必要があります。
  例えば、船の科学館などに遊興性の高い施設の増強とか、戦艦大和に特化しないビデオ上映とか・・・、簡易レストスペースを設けるとか、館外の施設利用とか・・・その気になればアイデアは色々浮かぶ筈です。


  3-4) 対策-4
        ★ 観光ガイド方法の工夫
      私たち観光ガイドは、現在地(呉)に纏わる歴史や、目の前にある物件について説明し、お客様から「よく分かりました」と感謝されるのが通例です。
  しかし呉(ローカル)の話題や郷土史は、(お客様は)「聴くだけ(一方通行)」が主になります。 それでも理解できたことに満足されますが、本質的な質疑にはならず、”呉”の魅力の深層(魂)は伝わりません。
    ”呉(周辺)”の(景観や遺跡や歴史遺産)には、江戸時代から現在まで、「約400年間の日本歴史」に係わった『歴史的物件』という意味で 「大きな魅力(=差別化ポイント)」があります。 外観のみでなく、その歴史的意味が伝えなければ、「宝は持ち腐り」です。
  それには、(お客様が)元々抱いている 「歴史観情景等」の知識に上乗せする技法を考えれば、興味が興味を呼び質疑応答や、互いの知識交換も活発化します。
    ◆ 【現状の問題点
   しかしバスツアー等「団体ツアー」のスポット見学時間は可能な限り短縮されています。
 それに合せ、受入側は 要領よく簡潔に説明するガイドテキストを編集するのが旧来常識です。 それは説明を狭いローカルエリア内の対象物に絞って、こじんまり纏められます。 観光客に理解し易くする狙いです。
  説明が理解できれば、お客様は満足しますが、それでは「呉固有の特長や、差別化ポイント」について印象は何も残りません。 所詮リピーター客や、呉ファンを生み出すインパクトにはなりません。

     ◆ 【対 策
  それには、例えば、①呉湾の風景説明は、対比する形で「とびしま海道沿いの絶景」や(可能なら日本各地の海景色)との比較や相違点も紹介します。 ②御手洗を案内する時は、地を這う「蟻の目」で見る風景だけでなく、北前船の集積風景を高所の「歴史の見える丘」から眺める(想像する)ことも奨めます。 ③海軍鎮守府の説明(ドラマ)には「入船山記念館」、「江田島」、「音戸の瀬戸一帯」・・・「軍港遺産四市」など見残しスポットの説明も組み込みます。
 つまり、他の(お客様の想像できる)物件や、地域との比較をすることで、呉の特長を際立てることができます。
      勿論、限られた時間では ドラマ説明は完結しません。 「続きは後日改めて・・・!」と連続ドラマ化して、「シリーズツア」、「テーマツアー」への誘い( リピーター化)を促します。
  ドラマの筋書きや区切り設定についてはガイドに携わる人が自己啓発して腕を磨けば、多くのお客様はもっと感動されます。  下記 【4】;「おさんぽクルーズでのガイド経験」参照
    それが全てとは言いませんが、ガイド者は 『呉固有の特長』について整理し、自分の言葉でしっかりアピールしなければ、教科書通りの説明では『呉本来の魅力』は伝わりません。


  3-5) 対策-5
          ★ 近郊地域との連係戦略  

   本稿では、1日を有意義に過ごせる 「終日観光満足度」の競争力強化を基本戦略と考えています。
 それは、1日単位の「魅力的なモデルコース(多数)を如何に整備するか」と言う戦略ですが、それには呉(周辺)のローカルスポットのみでなく、近郊地域との連係も重要です。

   例えば、広島や宮島に大勢の観光客が来訪しますが、それを(呉に)呼び込むのでなく、広島・宮島と連係を組み、更に海上交通機関ともタイアップすれば、【呉ー広島ー宮島】を結ぶトライアングルルートができます。 
  それは、現在、広島と宮島(2か所)の観光では、京都や大阪からは日帰りが可能です、若しくは九州等など他地域への移動も可能です。 つまり広島近辺での宿泊チャンスをミスミス失われています。
  【呉ー広島ー宮島】の観光ルートが開ければ、その何れかの地で宿泊する確率は高くなります。 観光ルートとしても人気を呼ぶ筈です

      同様な考え方は、【呉ー松山】、 【大和ミュージアムー坂の上の雲ミュージアム】、 【呉ーとびしま海道ーしまなみ海道ー今治or尾道】、 【広島ー呉ー三原の海陸ルート】、【呉ー軍港四市】・・・等々にも 応用範囲は幾らでも拡がります。


  3-6)  対策-6
         ★ (旅行会社の)ツアープランナーとの折衝
     団体ツアーは、全て旅行会社など主催者側の意向で催行されます。
    ◆呉(受入れ側)は、『来訪するお客様は神様』 扱いで誠心誠意対応します。 しかしそれは、全国共通で、差別化戦略にはなりません。
   ◆ツアープランについては全て客側(旅行会社)の言いなり(受身形)で、私たち(呉サイド)から主体性を以て働きかけはしないのが通例です。
  しかし旅行会社のツアープランナーは、 それ程”呉”に精通してはいません。 視野はもっと広いエリアに向いて、「新しい魅力スポット」の発掘に一生懸命です。
  だから偶々、来訪したとしても、各スポット見学は最短時間に設定されています(前述)。
   ◆しかし、それでは呉の観光資源の本来の特長(差別化ポイント)は活かせません。
それでは、”呉”に来訪するツアー客数が増加する要素はありません。
    それには私たち(呉サイド)から、呉(周辺)の観光資源の特長(差別化ポイント)が、フルに活かせるツアーコースを提案し、旅行会社(ツアープランナー)からの希望も交換し合って、新たなツアーコースを開発する以外にありません。



 【4】 参考事例
      ”呉湾 おさんぽクルーズ”(呉ー江田島往復フェリー)のガイド体験
    「呉湾おさんぽクルーズ」は、呉~江田島フェリー(往復約45分間)船上で、希望されるお客様(通常 数人程度)に、呉湾の風景や歴史について観光ガイドをしています。 お客様は、「大和ミュージアム」の見学が目的ですが、それに関連して呉湾の風景も眺め様として乗船するお客様が殆どです。
   「大和ミュージアム」に入館前のお客様は、「戦艦大和は日本の誇る優秀な軍艦だと聞いています・・・』 と言う程度の知識レベルが多数派です。 大和ミュージアム見学後の印象を尋ねると、(日常よく聞く)単語と、展示物(現物)とが照合できたことや、戦艦大和のスケールや、技術力や、海底から引揚げられた遺物の実物など展示物の外観だけで殆どのお客様は満足の感を告げられます。
 しかしその中で、大和建造の経緯とか、戦績とか、最後の出撃とか、・・・太平洋戦争とか、歴史の流れ(ストーリー)を ある程度理解して退出するお客様はかなり少数です。
   しかし、私たち(おさんぽクルーズ)ガイドは、フェリーの船窓から見える物件をテーマにして説明しますが、大体は呉軍港関連のテーマがメインになります。
  それは海軍の歴史や、鎮守府や、”戦艦大和”建造の経緯や、大東亜戦史、科学技術進歩の関係、呉に纏わる色々な歴史的な流れなどですが、 私たちが少し説明するだけで、耳をそばだてて興味を示す人や、興味が更に膨らむ人が結構大勢います。 もう一度(大和ミュージアムで)見学し直す人や、・・・時間がなくて残念がる人も現れます。
  見方を変えれば、大和ミュージアムの"呉軍港"関連資料や展示物や、市内にある遺跡などの物件は、何れも、歴史を証明する証拠品《点=参考書》です。 呉(周辺)を周れば、それらを(線)に繋ぐストーリー《教科書》も学習でき、非常に見応のえある「遺産巡り」ができる筈ですが・・・。
  しかし一般観光客(大衆)は、それらを系統立てて説明する教師が不在では、《教科書》も《参考書》も読めません。 所詮 「魂の抜けた仏像見学」に過ぎない・・・のが実態です。
   しかし”呉湾おさんぽクルーズ”のガイドは、定期航路の一隅を利用する乗船客サービスなので観光客誘致戦略にはなりません。 「(大和ミュージアム)館内見学 +座学研修(レクチャー)」をセットにするカリキュラム(見学コース)が設定できれば・・・、もっと多くの、リピーターや熱烈な「呉ファン」育成に有効と考えます。



 【5】  総  括
     日本全国に観光客数が増加しても、方々に出現する名勝地に吸収され、”呉”には観光資源が幾ら揃っていても、訪れて来ません。
  「広島や宮島に来た序に呉にも・・・」と奨めても、お客様のスケジュールがタイトで中々実現しません。 勝敗の分かれ目は、一日を通した 「終日観光満足度」にあります。 それは大和ミュージアムとか、御手洗とか、下蒲刈とか、音戸とか・・・総合力で勝負しなければ、各スポット毎 個別では勝ち目はありません。
   しかしバスツアーなどは、旅行会社のプランナーが 見学先を上手く組合せて【終日ツアープラン】を組む為、ある程度の「満足度」は確保されても、周遊コースはワンパターンに限られ( 前述;2ー2)❸ 参照)・・・、「呉のお宝」は極く一部しか活かされません。 しかも各スポットの見学も最短時間になり・・・、”呉”本来の特長(差別化ポイント)のアピールの場は圧縮されています。 それでも、呉(受入れ側)から旅行会社への提案や折衝する発想はありません。
    大学の先生や専門家のセミナーは、観光客動向の統計や、各地域の取組みや成功例などが理路整然と紹介されます。  しかし「呉本来の特質(差別化ポイント)」と合致する例は、先ずあり得ません。
   そんな事例や流行にヒントを求めることは必要でも、しかし本業=《地域の特質(差別化ポイント)》を基盤とし、それを増長する施策でなければ、幾ら努力しても蓄積はできません。 長期的な勝ち目はありません。
   その基本は、次の様に考えています;
  ❶観光客に、呉の魅力を理解させる戦略 (観光ガイド、見学順路・モデルルートの整備・・・等)
   ❷観光客に、快楽・便宜与え、雰囲気を盛上げるマーケット戦略;
       (レストラン、各種イベント、ユルキャラ、グルメ・・・等、費用の比較的軽微な施策)
  ❸経済効果を目的とし、PDCAサイクルを循環させる作戦;
       (飲食業、宿泊業、商店街、交通機関、遊興施設、・・・等の活気を呼び戻す) 
  ここに、❶は 観光ボランティア等の発想で、 ❷は 観光関連業者等が中心になって実行する、→それが進展すれば、 ❸は 自然に追随し好循環に繋がる・・・と言う発想です。 
    それにも、最も基本的な条件は、観光ボランティアと上部組織(役所等)双方に、「次の2点」を確保することが先決と考えます。
本業(地域固有の特長、特質)を見究め戦略を考える人材育成と、その活用能力向上
旧来の固定観念を改め、時代の動向(外部環境の変化)を察し、即応できる組織体制
 
  瀬戸内観光作戦;         8
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